上野先生へのご質問
平成25年度島田療育センター公開シンポジウムでは、東京学芸大学名誉教授/日本LD学会理事長の上野一彦先生に基調講演をいただき、上野先生への質問は質問用紙を用意して自由討論の時間にご紹介しました。
たくさんのご質問をいただいたので時間内にすべてはご紹介しきれませんでしたが、後日上野一彦先生にご回答いただけましたので、この場でご紹介いたします。
特別な支援を受けることを拒否する保護者に対して、どう対応すればよいでしょうか?
この答えは簡単ではありません。保護者に子どもさんの発達状態と教育状態を客観的に理解してもらうためにどうすればよいかです。その前提として、伝える方が 保護者から十分に信頼されているか、十分な知識と情報を持っているかがあります。一般的にという意味とその家族についてという意味と両方あることも大切で す。抽象的な質問には抽象的にしか答えられないこと、具体的に一つ一つ順序を追って応えていくしかないことにもどかしさ感じます。
高校を何とか卒業して、その後4年近くひきこもっております。病院ではアスペルガーとのことで、本人も薄々感じていますが、先生との相性が悪く、1度しか受診していません。社会との関わりがなく、親も年金暮らしで、何をどうしたらよいかわかりません。
登校拒否やひきこもりは二次症状の加わった重い結果です。アスペルガーの場合は、被害者意識がかなり強いケースが多く、それだけ傷つきかたも大きいのです。 ここまで来てからどうしたらいいのでしょうという質問は重く、答えも簡単ではありません。劇的な対応法はなく、その一つ一つをほぐすしかないのです。
大切なことは、周りのペースにあわさせることではなく、本人の気持ちを先ず受け入れるというか、どう感じているかを共感するのがスタートでしょう。わずか でも自尊心について理解することです。単純で率直な意見のほうが、回りくどい意見より理解していることもあります。より不安の少ない具体的行動を一緒に考 えることが第一歩です。
国の教育者育成機関である国立大学の附属の小中は、偏差値の高いお子さんが集まり、特別支援教育としては、盲、ろう、知的、身体に分かれた附属校があり、ま さに中間の発達障害の子供への教育を充実したり学んだりする場面がないように思います。今後は変わっていくのでしょうか?入試を経た小中附属校入学生の中 にも混ざってはいるのかもしれませんが。
附属にもさまざまな子がいます。いろいろなレベルで選抜した教育の場にもその場なりの悩みもあります。私は、発達障害は中間的な存在という特徴があることと、障害ではなく個性という捉え方が、環境のなかでの様々な適応を可能にすると思っています。
LDのスクリーニングを教師に行ってもらうなど等の教師の役割について語られたが、臨床心理士はどのような役割になるのか。
心理士、教師、医師など、それぞれの専門職としての責務があり、相手を尊重しつつ、どう連携するかです。ひとつの民間資格のみを採りあげて述べることはここではできません。
八王子の通級はLDの部分への支援がなく、通常学級でもなくて大変です。通級はコミュニケーションの学習といわれています。LDも対象なんですか。
わが国の発達障害は、LD,ADHD,ASD(自閉症スペクトラム障害)が主な対象です。一地域だけが限定するものではありません。
八王子市の特別支援学級は、知的障害学級しかありませんが、今後の展望として、望ましい方向があれば教えていただけませんか。
すべての支援を求める児童生徒に対して、その個別的支援ニーズを満たしていくことがあるべき姿です。インクルーシブ教育と合理的配慮はそのすべてを語るものです。
発達障害がスペクトラムでとらえられるようになり、軽度の障害者への支援にも目が向けられるようになったのは確かに重要だと思います。ただ、何でもかんでも “発達障害”という風潮があるような気もします。入試制度のお話もありましたが、線引きがどんどん難しくなっている中でのアセスメントについて、お考えが あったらお聞かせください。
線引きは行政的な措置のためにあります。しかし実態は連続的であることを知るべきです。そのためには多様で柔軟なサービスが前提となります。また受けやすいサービスと効果的なサービスを常に心がけるべきです。新しい障害名にとびつく風潮はよくある現象です。
発達障害の理解が少ないうちに、不登校になり、現在高校年齢もしくは成人年齢になってしまった。ひきこもり状態の方々に今から何らかの支援を行うことが可能でしょうか。どのようなことをすればよいのでしょうか。
発達障害への最初対応はまず3年生までにと思います。理解や対応の遅れは事態を複雑かつ、より困難なものにしてしまいます。二次症状の結果を修復するには受 けた歳月の2倍の時間がかかるといった人があります。私たちは手遅れといった言葉を使う前に、残された時間のなかで一歩でも半歩でも必要な課題を見つける ようにしています。
インクルーシブな場が介助員や支援員などの身分の不安定な非専門的人員によって担われていると思われます。この状況は変わっていくのでしょうか。
非常勤よりは安定した常勤で担うべきです。これらは過渡的措置だと思います。
特別支援教育について、就学検討委員会にかかることや、特別支援学校(高等部)に入る時に、医師の診断書が必要という医学モデルに疑問を感じます。生活の中のニーズに応じてサービスが受けられる生活モデルになってほしいです。
理想的にはそうでしょうね。いろいろな実践のなかから、本人や家族にとって、受けやすい支援、効果のある支援という評かが蓄積されて変化して句のですし、そうした方向への地道な改善を心がける実践が本物の力です。
最後の発達障害に関する支援教育の次の課題の「教育と福祉の連動した支援体制を」の部分で虐待という言葉が出ましたが、そこをもう少し詳しく聞きたいです。
教育だけでは限界のあるケースが増えてきており、福祉との連動が求められます。虐待のケースを見ていると、母一人で何とか頑張っているうち、夫や家族の支援もなく、やがて疲れ果ててそうしたケースになっていく場合もあるということです。
センター試験を特別措置(配慮等)で受けられた方のご感想やご意見等ご存知でしたら、教えて頂けたらと思います。
直接個人を特定しての感想や意見を聞く機会はありません。その波及によって、高校受験や高校の対応、大学での2次試験や授業での配慮に変化が出てきたという報告は耳にします。
入試の受験上の配慮は高校入試でも、可能でしょうか。手続きは具体的にどのようにするものでしょうか。
受験での配慮に区別はありませんし、実際に広がってきています。
先生が強調されていた、“個性”に関することですが、“個性”は障害を持つ方だけでなく、健常の方にも使われる言葉だと思います。先生が考える障害を持つ方の個性と、健常の方の個性の違いを教えてください。
個性はすべての人にあるもので、障害はどうしても人間を2分してしまうというのが本音です。個性の多様性、連続性を支援の多様性、連続性につなげたいのです。
学級定員の話しがありましたが、保育園で3~5歳異年齢1クラス47名います。担任は3名について、パートさんが1名(発達障害の子がいるため)ついてい ます。大人の人数としては、不足はしていないとは思います。やはり30名代になると全体の落ち着き度が違うと感じます。保育園の1クラス人数も小規模の方 が、望ましいのでしょうか。
単なる規模と数ではなく、子どもに手厚く接することができているかという現実の姿を大切にすべきだと思っています。それは個人の資質によっても変わりますが、ごく一般の先生でも、子どもたちに手厚く接することができるのがよいシステムだと思っています。
ディスカッション
コメント一覧
ADHDの子どもの対応が5時間続きそれに事務的作業も続きます。休み中もうまく指導できない児童のことや連携できない担任教員とのことが頭から離れず考えていると目がくらみ頭もフラフラしてきます。それでもどうにかしたいので考え続けるのですが答えがわかりません。
お子様のことをとても大切に思って対応してくださっているのですね。
ただ、ご自身の健康も大事ですので、どうかお一人で抱え込まず専門家にもご相談なさってください。
もしお近くにご在勤でしたら、当センターではセブンクローバーという独自サービスで支援者からのご相談にも対応しております。
まずはご相談から、お気軽にお電話ください。
発達支援センターセブンクローバー
https://www.shimada-ryoiku.or.jp/support/sevenclover.html
また、都内の学校でしたら東京都の地域療育等支援事業という事業を使って、専門職が学校に伺ってお子さんへの対応を先生方にお伝えすることもできます。
地域療育等支援事業
https://www.shimada-ryoiku.or.jp/support/shienjigyo.html
別の地域でも、各自治体が同様の事業を実施しておりますので、このようなサービスの利用も考えてみてください。