院長就任にあたって
2021年4月1日付けで木実谷先生の後任院長を拝命しました。日本の重心施設の歴史を作ってきた島田療育センターの伝統を顧みると身の引き締まる思いです。
先覚者としての小林提樹先生の奮闘、その後の混乱、そして木実谷先生により現在の安定したセンターになった遺産を受け継いで新しいニーズに答えたいと思います。
今でこそ治る神経疾患が増えてはきましたが、まだ原因不明で根本的治療にはいたらない疾患が多数あります。そこから「治らない疾患に対して何ができるか」という課題が生まれてきました。
脳性麻痺を限りなく正常に近づける作業を患者家族に強いた過去が日本の(世界的にも)療育の歴史にはあります。
そうではないのです。
脳性麻痺に日常生活上の負担が多くありますが、訓練で是正できることなど大したことではありません。
それ以外のニーズを掘り下げていくと医学モデルよりも社会モデルの構築が必要であることがわかります。
医学はヒトを精密な機械とみなし、病気を機械の不具合とみなしてどう修理するかということに腐心してきました。
それはとりもなおさずヒトが膨大な機械としての部分を持つからです。機械の不具合は機械の修理に任せておけばよいのですが、ヒトは機械でない部分(非合理)を持つことでヒト足りえています。
ヒトは自問自答する個人の世界、固有の性の関係する世界、社会の中で存在する世界の複合として存在します。
医療も福祉も全てをカバーすることはできません。
その狭間で「誰かの何かの役に立つ」仕事をプロとして掲げているのが我々だと考えています。言葉が軽くなった時代ですが、歴史を乗り越えたアートとしての言葉は確かなものがあるはずです。
降りて行く軽さとこの言葉で「希望」を処方することが我々の使命です。