今月(6月)出版された「摂食嚥下サポート」(中央法規出版)という本の「はじめに」という文章を書いたので出版社の許可を得て転載する。
この本は島田療育センターが総力を挙げて作成したもので、手に取ると明日から役立つ摂食嚥下の実践の智慧が満載なのがわかる。
食べることについての雑感
島田療育センター
久保田雅也
「生きるために食べよ。食べるために生きるな。Thou shouldst eat to live; not live to eat.」というソクラテスの言葉とされる格言がある。
これは様々に解釈され、現在に至っている。
- 生きることに汲々として食べんがために生きるような状態はよろしくない。
- 食べるということは生きることの全体からすると些末なことで、食べるという快楽が目的になってはいけない。
- 食べることは手段に過ぎず、生きるということはもっと崇高なものである。
等々。
「人はパンのみに生きるにあらず」もこれに通じるだろうか。
食べるということが生物としてのヒトの生命維持に不可欠なものにとどまる限り、これらの言葉は正しい。
ただ、その正しさが、もっと言えばその説教臭さが鼻につく。
正しいことばかり言われても困る。
食べるという快楽が目的になってもよいではないか。
いずれにしろ生きることも食べることもその意味は後付けに過ぎない。
まず身体があってのことだ。食べることをより善く生きることと結びつけ過ぎない方がよい。
この本にはのんきな哲学者と熱心過ぎる宣教師たちには思いもよらない食べることに対する工夫が満ちている。
善き人であろうがなかろうが、がつがつ食いたいのである。食べるということにwetな物語を求めたりしない。ただ食べんがために食べる、生きんがために生きる。
より楽しく、より安全に食べ・食べさせるということを洞察したプロの智慧と言葉が誰かの役に立つことを願っている。