先天性無痛無汗症 (Congenital Insensitivity to Pain with Anhidrosis: CIPA)は、遺伝性感覚自律神経性ニューロパチー(Hereditary Sensory and Autonomic Neuropathy)4型 (HSAN-4)に分類され、温・痛覚欠如、発汗障害、知的発達症を特徴とする常染色体劣性遺伝の疾患である。日本においてはHSAN-4 (CIPA)の患者数は130~210名、有病率は 60万から95万人に1人、また年齢分布は5〜40歳が多くを占めるが65〜70歳の患者も認めている。
本症では神経発生の過程で、末梢神経のうち有髄神経の最も細いAδ線維と無髄C線維(自律性と体性)が選択的に欠損ないし、減少する。そのためAδ線維が司る温度覚と痛覚のうち特に鋭い痛みの知覚などが障害され、一方無髄C線維(体性)が司る鈍い痛みやかゆみの知覚なども障害される。また、無汗は汗腺をとり囲む毛細血管の機能を調節する自律性C線維(交感神経節後線維)の欠損ないし減少により血管作動性に汗の材料たる水分、塩類を供給することができないため起こると考えられる。
これに対し、遺伝性感覚自律神経性ニューロパチー5型(HSAN-5)は温痛覚消失を主徴とするが、一般に発汗障害や知的発達症を伴わず、ナトリウムチャネルSCN9A遺伝子や稀にNGF(Nerve Growth Factor)遺伝子に変異があり、先天性無痛症と呼ばれ、HSAN-4 (CIPA)とは区別される。HSAN-5の患者数は30~60名とHSAN-4よりも少ない。
NPO無痛無汗症の会「トゥモロウ」(ホームページ http://www.tomorrow.or.jp )は本症の患者・家族会として1993年に設立された。整形外科、小児科、歯科・口腔外科などの専門家も協力し、1994年から毎年検診会−シンポジウムを開催し、情報を発信している。
その成果として先天性無痛症および無痛無汗症に対する総合的な診療・ケアのための指針(第2版)を公開している(*1)。また、英文での同指針もできている(*2)。
(*1)
CIPA 診療・ケアのための指針(第2版)
(*2)